今とこれから
永く静かにフォローしてくださっているオーナーさんへ。近況と、僕が今後どうなっていくのか、をお伝えしワクワクしてもらえるだろうことを綴っておきます。
ここ一年ほど、ブログの更新をほとんど止めていました。問合せをDiscord一本に絞り、開発に集中するためです。連絡媒体をあちこちに分散させると、集中力が削がれてしまうんですよね。友達に話したら「そりゃ依頼来なくなるわ〜」と笑われましたが、僕にはその感覚はピンとこなくて(笑)、これでよかったと思っています。
サイトの構成をたまに微修正している割に、施工実績がアップデートされないので、少し心配や失望を感じさせていたかもしれません。サイトの雰囲気は、見る人にどう映るかをあまり考えず、表現したいままに自由にやらせてもらっています。(スクエニの野村さんの影響です。FF7シリーズやキングダムハーツシリーズを思い浮かべてもらえると、なるほどと思ってもらえるはずです。)
単発の依頼はほとんど無くなりました。代わりに、長期のプロジェクトがいくつも並行で進んでいます。サイトのトップにある Project Processing の数字が、その進行中の数です。やってみて、同時進行は3件が限界でした。
ここで書いておきたいのは「今こうなっています」という報告そのものよりも、これらのプロジェクトが、その先にどんな価値を運んでいくのか、です。この1年半に手がけてきたものを並べてみます。
F33 435i 復旧プロジェクト
訳あり車両をなんとか復旧できないか、というオーナーさんの実験プロジェクトでした。
この訳あり具合が凄まじかったです。エラーが150以上のオンパレード、FEMが325i、トレーラーモジュールのFAがオンになっているのが癌でした。しかもモジュールのソフトウェアバージョンが何故かバラバラで……ISTAでは歯が立たず、ありとあらゆるツールを複合利用して復旧しました。
当初の依頼は、DMEの5V電源エラーの解消でした。お付き合いのあるディーラーさんからは、DME交換で40万円以上のコースを提案されたらしいのです。これをなんとかならないか、という相談から始まりました。
電気系統エラーのオンパレードだったので、これを解消しないと本当の問題が見えない。だからエラー解消から始めました。こいつがどハマりで、大プロジェクトになってしまいました(笑)。
結果、隠された膿を全部出し切って、綺麗にできました。費用は部品代がかかったものの、一般的な費用の1/3には抑えられたと思います。ちなみに5V電源エラーの原因は、バルブトロニックモーターのショート。モーター代3万円+ベッドカバー脱着工賃で治るものでした。これを見つけるには、配線図の読み込みと電気回路の基本知識を組み合わせる知見が必要でした。
ごみを宝に変えられた達成感がなんともいえませんでした。
このプロジェクトが教えてくれるのは、最初に正しい問いを立てれば、答えは意外なほどシンプルで、コストも小さくなるということです。時間をかけて丁寧に剥がしていくから、本当の原因にたどり着ける。急ぎたい気持ちをいったん置いて、一つずつ向き合う。それだけで結果が変わります、という僕の理論を実際に体現したプロジェクトになりました。
E60 M5 MT化コンバート
現在進行中のプロジェクトです。オーナーさんから「V10を自分の足と手で操れる楽しみを得るのが人生の夢」という熱いメッセージをいただき、エンジニアリング支援を行っています。
パーツを自分で揃えるかKitを買うか、E92 M3のMTミッションをどこで調達するか、32mm延長が必要なプロペラシャフトを希少なMT用中古で探すか加工に出すか、加工は現車シャフトにするか在庫品にするか……費用と時間と、施工をお願いするショップさんの要望とのバランスを取りながら、調査・調達・仕様決定・発注・関係者調整を進めました。今は部品の納品待ちで、取付加工後のコーティングは僕が担当します。
正直に言うと、パーツがなかなか来なくて、僕の方がイライラしてしまっていました(笑)。でもオーナーさんはドンと構えていて、全然焦っていないんですよね。気づいたら、僕が言っている理論を、オーナーさんの方が体現されていました。
Alfa Romeo GTV V6 3.2
こちらも進行中です。依頼は、エアコンが効かない/ECUエラーが出ている/6社に対応できないと諦められてしまった、というものでした。
まずはどんな診断機があるのかから調べ、初心に帰った気分でした(笑)。配線図も集めて舐めるように読みました。BMWと作法が違って勉強になります。年式やハンドル位置で配線やモジュールの違いが多く、正しい図面を選ぶのが難しい。見る図面を間違えてお門違いな場所を調べてしまうことも多々ありました。
お車は20年大事に乗られ、整備履歴もしっかり残っているのですが、電気制御系の問題は先延ばしされていました。リレーやヒューズの交換だけでは治らず、435iの時のように丁寧に戦略的に測定しながら、絶賛トラブルシュート中です。
6社が諦めた問題も、オーナーさんが諦めていないから続けられています。
中古車販売店支援
コンピュータ、電気系修理、新しいビジネスモデルの構築支援を行っています。詳細は今は伏せますが、もう3〜4年のお付き合いです。
この3〜4年の間に、さまざまなドラマと変化がありました。オーナーさん自身ももともと素晴らしい方で、書きたいことがたくさんあります。詳しくは別の記事で改めて綴ります。
E46 M3 CSL コンバートチューニング支援の続き
昨年からCSLカーボンエアボックスへ交換した後のVEチューニングを支援していて、今年も継続します。コミュニティのアップデートと、それを踏まえた僕の見解を今年適用します。Discord内の質問がきっかけで思いついた案で、内容は掲示板にあります。
オーナーさんは、CSLフラップ構造がない場合特有の低回転域の気持ち悪さをどうにかして解消したいようで、あの手この手でアプローチがあるならそれを試し続けたいとお考えのようです。
VANOSチューニングシミュレータ開発
OpenWAM(一次元エンジンモデル)をリファクタリングして、VANOSをシミュレーションで自動チューニングするソフトを開発しています。AIを使えば簡単にいけると思っていたのですが、全然ダメでした。もう1年以上開発しています。めちゃくちゃ大変ですが諦めずに続けています。難しいとは思っていません。早く完成させたくて、試行錯誤がじれったくてイライラするのが大変なんです。この思考中に問合せの事が頭にあると、さらにイライラしてしまうから、Discordに絞ってたのです(笑)。
独特のコーティング作法ゆえにエンジンモデルの構築でつまずき、解消したと思えばパイプ接合部の音速超えで計算が破綻し、CSL純正VEとシミュレーションVEがまったく近似せず、スロットルと回転数にVEが追従しない……複合要因が絡まっているので、色々試しまくって少しずつ解決してきました。
AIに指示を出して眺めているだけなんですけど、思考過程を眺めているとめちゃくちゃ勉強になります。BMWに限らず、自動車チューニングコミュニティで皆さん色々議論されていると思いますが、理にかなってるものやそうじゃないものなど理解できるようになります。特にエキマニやフロントパイプ、ポート開発は、ハードウェアだけの試行錯誤では天才か相当な積み上げがないと無理ゲーですが、シミュレーターはそこを越えさせてくれます。このようなショートカットが可能なのは、先輩たちが技術の積み上げを論文などのドキュメントに残してくれているからです。一方で先人の知識に甘え消費するだけでは進歩しないと強く感じるので、このように結果を公表していくことに意味があると考えて続けています。
このシミュレーターは、VANOSの自動チューニングだけでなく、その先のいくつかの機能も見据えた大プロジェクトです。中々進まなかったこのプロジェクトも、最近になって進みが早くなってきました。しかし、誰でも簡単に使えるようにするのは今のところ不可能で、需要があるならプロ向けか、シミュレーターを使ったチューニング支援という形での公開になると思います。
単発案件は無くなりましたが、その分、一つひとつのプロジェクトを深く掘れるようになりました。
これらに共通しているのは、一つのことだけです。時間に縛られず、急がず、ゆっくりだけど確実に深掘りしていく。そうすることで、最終的に本当に欲しいものが、最小限のコストで手に入る。これが僕の”M”ethodologyです。
そしてこれを実現する保証は、技術でも経験でも、お金でもありません。オーナーさん自身の「諦めたくない」という強い気持ち、それだけです。その気持ちがあるから、焦らずにいられる。焦らないから、正しい判断が積み重なる。そして気づけば、無意識のうちに行動が変わり、夢に近づいている。
僕がこれから届けていきたいのは、その仕組みです。ですが、これに型があるわけではありません。一緒に関わっていく。それだけがこの仕組みをシェアできる唯一の方法だと考えています。
諦めなかったその先に何が見えてくるのか、これらのプロジェクトから想像してもらえたら嬉しいです。