E60 M5 MT化プロジェクト | 最終減速比で変わるシフトフィール:FD 3.62 / 3.91 / 4.10を徹底比較
現在、E60 M5のSMGⅢを6速マニュアル化するプロジェクトを進めています。
コンバージョンキットはeuroconnexで相談中。中古6MTギアボックス(GS6-53BZ)の調達について問い合わせたところ、担当のMattさんからファイナルドライブ(FD)の変更を強く薦められました。
この言葉を受け、6MT化後に**どのFD比がベストか?**を比較するために、グラフを作成しました。
本記事ではその内容をもとに、FD 3.62 / 3.91 / 4.10 のシフトフィールと車速–回転数の違いを丁寧に解説していきます。
比較する4つの仕様
図 | トランスミッション | 最終減速比(FD) | ギア数 | 位置づけ |
---|---|---|---|---|
1 | E60 M5 純正SMGⅢ | 3.62 | 7速 | 基準(比較用) |
2 | E92 M3 6MT | 3.62 | 6速 | 選択肢①:SMGのFDを継承 |
3 | E92 M3 6MT | 3.91 | 6速 | 選択肢②:E92 M3純正、巡航バランス型 |
4 | E92 M3 6MT | 4.10 | 6速 | 選択肢③:クロスレシオ再現、SMG感を重視 |
車速と回転数の比較グラフ(各ギア)
各仕様ごとに、**車速(km/h)とエンジン回転数(rpm)**の関係をグラフで示しました。ギアはすべて1速からトップギアまでを含みます。
図1:E60 M5純正 SMGⅢ + FD 3.62
図2:6MT + FD 3.62(ギア数1つ減)
図3:6MT + FD 3.91(標準MT寄り)
図4:6MT + FD 4.10(クロス寄り)
注目ポイント:
ギア数が7速→6速に減ると、ギア間ステップが広がるため、FDによる補正が重要になります。
FD別シフトフィールの特徴と考察
図1 FD 3.62 + SMGⅢ【比較基準】
非常に滑らかな回転上昇。
7速構成でギア間の回転落差が小さく、クロス感が強い。
高速域でも伸びがあり、8000rpm超えで240km/h以上。
このグラフを“基準”として、他の選択肢を評価
図2 FD 3.62 + 6MT【SMGのFDをそのまま】
ハイギアード寄り(=同じ回転数でより速く走れる)。
しかし、ギア段数が1つ減った影響で、回転落差が大きくなり、加速時の“つながり感”がやや希薄に。
高速巡航では回転数が最も低く、静粛性・燃費に優れるが、街乗りではやや重く感じることも。
SMGとの定量比較ができるので、グラフ参照用として非常に有用
図3 FD 3.91 + 6MT【バランス型】
E92 M3の純正FDで、街乗りと高速巡航の中間的なバランス。
ギア間のつながりもそれなりに自然で、実用性が高い。
高速巡航も回転数が抑えられる。
迷ったらコレ。万人向け。
図4 FD 4.10 + 6MT【クロスレシオ再現】
回転数が上がりやすく、各ギアの加速が鋭く感じられる。
ギア間の落差が最小に近く、SMGの1~6速クロス感を6MTで再現したようなフィーリング。
高速では回転数が高くなるため、燃費・騒音面でのデメリットあり。
「SMGのフィールを維持したいならベスト」な選択肢
数値比較表
組み合わせ | 巡航回転数(6速100km/h) | 2→3速回転差(目安) | 特徴 |
---|---|---|---|
SMGⅢ + 3.62 | 約2,500rpm | 約1,650rpm | クロス感最強、基準フィール |
6MT + 3.62 | 約2,200rpm | 約2,100rpm | ハイギアード、回転落差大で“間”を感じやすい |
6MT + 3.91 | 約2,600rpm | 約1,900rpm | 実用バランス型 |
6MT + 4.10 | 約2,800rpm | 約1,700rpm | クロス再現、スポーティ、回転高め |
使用スタイル別おすすめFD
使用シーン | 最適なFD | 理由 |
---|---|---|
街乗り+高速巡航重視 | 3.91 | 回転数が抑えられ燃費が良く、ギア落差も自然 |
サーキット・ワインディング中心 | 4.10 | クロス感が強く、加速つながりがスムーズ。SMGに近い感覚を維持可能 |
燃費と静粛性を最優先 | 3.62 | 回転数が最も低く、ロングツーリング向け。ただしフィーリングにやや粗さあり |
終わりに
E60 M5のMT化は、単なる機械的なコンバートに留まらず、エンジン特性・車重・走行シーンに合った最終減速比の再設計がカギとなります。
今回の考察から、以下のような結論が導けます:
SMGフィールを失いたくないなら FD 4.10
実用性とのバランスなら FD 3.91
巡航性能と比較検証用なら FD 3.62
付録:計算に使用したギア比・タイヤサイズ・仕様データ
ギア比一覧
E60 M5(SMGⅢ・7速)ギア比(Final Drive:3.62)
1速:3.985
2速:2.652
3速:1.806
4速:1.392
5速:1.159
6速:1.000
7速:0.833
E92 M3(6速MT)ギア比(Final Drive:3.62 / 3.91 / 4.10)
1速:4.055
2速:2.396
3速:1.582
4速:1.192
5速:1.000
6速:0.872
タイヤ外径
使用タイヤサイズ(E60 M5純正リア)
285/35ZR19
計算上のタイヤ外径:682mm(= 0.682 m)
外周長(1回転あたり):約2.141m
エンジン仕様
S85B50型 V10エンジン(E60 M5)
最大許容回転数(レブリミット):8,250 rpm
計算レンジ:0〜8,250 rpm を 100ステップで線形分割
車速計算式(km/h)
Speed = ((RPM / 60) × 外周長) / (ギア比 × ファイナルドライブ比) × 3.6
RPM
:エンジン回転数(毎分)外周長
:タイヤの1回転の距離(メートル)ギア比
:各ギアの変速比FD比
:ファイナルドライブ比3.6
:m/s → km/h 変換係数
補足:すべての計算はギア段ごとにエンジン回転数を0〜8,250 rpmで等間隔に取り、Python(NumPy + Matplotlib)でグラフ化しました。